糖尿病の運動に最適な時間帯はあるのか?

糖尿病の運動タイミング

2型糖尿病であれば運動が必要であることはすでにみなさんご存じの通りですが、どうせやるならいつやるのが効果的なのか?というのが今回のお話しです。(途中、1型の内容も若干ありますが)

ただ個人的には、いつやるかにこだわるよりも自分が継続しやすいタイミングで持続的に運動することが大切だと思っています。

とはいえ、2型糖尿病で運動に効果的な時間帯があるなら、もちろんそのタイミングで続けるぜ!という人もいるでしょうから、2型糖尿病と運動時間帯についての研究を調査しました。

まずこちらの論文を見てみましょう。

米国糖尿病学会の雑誌 Diabetes Careに掲載された論文です。

この研究では、2型糖尿病患者における中等度から高強度の身体活動(bMVPA)のタイミングと血糖コントロールとの関連を調査しています。

研究対象者は2,416人の成人(45~76歳、女性57%、男性43%)で、BMIが25以上の2型糖尿病患者でした。

研究参加者は4年間の生活習慣介入(身体活動の増加と摂取カロリーの減少)または標準治療(身体活動や摂取カロリーについての教育)に割り付けられ、1年目と4年目に参加者のbMVPAを腰に装着した加速度計(身体活動の量と強度を測定する装置)を用いて7日間評価しています。

そして参加者は、bMVPAの少なくとも50%を記録した時間に基づいて以下の6つのグループに分けられました。

非活動的bMVPAの日数が週1日以下
5:30~10:30
10:30~13:45
午後13:45~17:00
夕方17:00~0:00
混合1つの時間帯におけるbMVPAの記録日数が50%未満

そしてHbA1cや空腹時血糖などにグループ間で違いがないか解析されました。

結果ですが、1年目において、午後の運動は他の5つの群と比較してHbA1cの低下(30-50%)に関連がありました。また、この結果は身体活動の量に関係なく認められました。

一方で、4年目のHbA1cの変化には群間に差はありませんでした。

また、空腹時血糖値も群間で差はありませんでした。

また、午後の運動が血糖コントロールに及ぼす効果は生活習慣介入群でのみ有意であり、標準治療群では有意ではありませんでした。

なぜこのような結果になったのでしょうか。

論文では、最初の1年間は最も集中的な生活習慣の介入が行われたので、それがなんらかの関係があったのだろうと考察しています。

研究では最初の6ヵ月間は週1回の個人およびグループカウンセリングが行われ、その後は月1回のカウンセリングが行われています。介入群では食事カウンセリングも受けていることから、HbA1cの変化は運動のみの効果とは決定づけることはできないとのことです。

一応論文では、午後に行われる運動は成人の糖尿病患者において、特に介入後12ヵ月以内の血糖コントロールの改善に関連していると結論づけられていますが、これのみでは午後に運動をやった方がいい!とはなかなか言い難い印象がありますね。

これでは結局いつ運動したらいいの?というモヤモヤがいまいち解消しないので(個人的に)、他の研究をみてみることにします。

こちらの研究はオランダ人コホートにおいて、座りっぱなしの休憩時間と身体活動のタイミングと肝脂肪量およびインスリン抵抗性との関連を横断的に検討したものです。

参加者は最も活動的な時間帯が調査され、午前中(06:00-12:00)、午後(12:00-18:00)、夕方から夜(18:00-00:00)、1日で均等に行うの4つに分類されました。

結果は、座位時間の1日の休憩回数は肝脂肪量の低下やインスリン抵抗性の低下とは関連しなかった一方で、午後または夕方における中等度から高強度な活動は最大25%のインスリン抵抗性低下と関連していました。

残念ながら空腹時血糖やHbA1cにおいて各群に有意差はなかったのですが対象者は糖尿病に限っていないので、インスリン抵抗性が高い2型糖尿病の場合には午後から夜の運動が血糖改善に役立つかもしれません。

とはいえ、上記研究から血糖改善に繋げるのは希望的な拡大解釈なので、違う研究を見てみます。

こちらの研究は2型糖尿病の男性11名を対象に行われた無作為クロスオーバー試験です。

運動時間帯を午前と午後に分けて2型糖尿病患者の血糖コントロールを調査しています。

参加者の年齢は45~68歳、BMI 23~33で、除外基準はインスリン治療であることや他の全身疾患の有無でした。

運動は午前または午後の高強度インターバルトレーニング(HIIT)を2週間(3セッション/週)行った後、2週間のウォッシュアウト期間を設けて、その後運動時間帯を変更して同じ運動を行いました。血糖測定は持続グルコースモニター(CGM)で行われています。

参加者は普段の生活の中で専門家のサポートのもとでHIITを行っており、食事時間や運動時間の設定はされていませんでした。

それでは結果をみてみましょう。

朝のHIITはトレーニング前や午後のHIITと比較して血糖が増加していました。逆に午後のHIITはトレーニング前や午前中のHIITと比較して血糖が低下していました。

Malden S, etc. Diabetologia.2019; 62(2):233-237.

なぜ午前中の運動で血糖が上昇したのでしょうか。

論文では、参加者は自由生活下で研究に参加しているため原因を特定することは難しいものの、運動の後に食事を行っている場合などが関連しているかもしれない。とのことです。

では午前中でも食後に運動を行ったら血糖はどうなるのでしょうか。

こちらの研究では、朝食90後に行われたHIITは2型糖尿病患者の血糖値を低下させることが示されています。

つまり午前中でも食後に運動したら血糖低下効果は認められるということです。

うーむ、結局運動は午前か午後か、タイミングはどうしたらいいのでしょうか。

ということで米国糖尿病学会は以下のように仰っています。

— 以下、私の意訳 —

糖尿病患者における1日の運動時間帯と全般的な健康状態および血糖値との関係に影響を及ぼす可能性のある要素が多数あることを考えると、現在の研究結果が研究間で必ずしも一貫していないことは納得できる。

とにかく、継続的な運動はその時間帯や強度にかかわらず、一般的に糖尿病患者の血糖値を改善し健康に役立つ。よって、現実的には、時間帯や強度にこだわる前に継続できる運動習慣を身につけることが最も大切である。継続さえできれば、運動する時間帯はその個人にとって最適となる。

細かいことを言えば、1型糖尿病患者の場合は1日の早い時間に軽度から中等度の持久的トレーニングを継続することは低血糖も少なくなるといういくつかのエビデンスがある。逆に、午後に運動する場合はHIITまたは筋トレの方が持久的運動よりもグルコース変動の管理に有益であるかもしれない。(糖尿病予備軍や2型糖尿病患者においては明らかではない)

1型糖尿病患者の場合は血糖値に影響する要素は複雑となる。食後の持久的運動は血糖低下に役立つが、低血糖のリスクが高まることを考慮する必要がある。逆に、低血糖が懸念される場合は食前の持久的運動やHIIT、食前食後を問わない筋トレが1型糖尿病患者にとって有益である可能性がある。また、運動のタイミングにかかわらず、CGMや血糖の変動傾向に基づいた炭水化物の間食が推奨される。

これまでの研究から、食前の運動はインスリン感受性を改善する可能性があり、食後の運動は糖尿病予備軍や2型糖尿病患者の食後血糖を最も減少させる可能性がある、また、毎食後の短時間の運動(階段昇降など)は、1日を通して血糖をコントロールする効果的な方法であると考えられる。

— 意訳ここまで —

とのことです。

ということで結局は、継続的な運動が健康によいということであり、2型糖尿病の運動の時間帯にこだわらなくてもよさそうです。

私が個人的に考えていたこととほぼ同じ結論でなんとなく嬉しいです。

あえて言うなら食後血糖を上げない・下げるための運動としては、1日のうちの時間帯というより食後に動くということが大切になりますね。

糖尿病の運動に最適な時間帯については今後のさらなる研究結果待ちですね。

それでは今回はこのへんで。

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