高インスリン血症のがん形成機序が解明

遺伝子画像

こんにちは。

2020年5月8日に産経新聞のTHE SANKEI NEWSで糖尿病によるがん発症リスク ハエで仕組み解明 京大という記事が紹介されていました。

内容を簡単にまとめると、ショウジョウバエを使った研究においてchicoという遺伝子を破壊すると高インスリン状態になり、高インスリン状態はがん細胞になる要素を持つ異常な細胞おいてタンパク合成が高まりがん形成につながったということです。

これをもって一部の糖質制限者は、糖質制限食では高インスリン血症が防げるのでがん発症の予防効果が期待できると仰っています。

高インスリン血症がリスクなのであって、インスリン分泌を促さない糖質制限に予防効果があるということには繋がらないのですが、論文では何と言っているかが気になったので読んでみました。

論文内で糖質制限を推奨してくれていれば糖質制限万歳なのですが。

さて、まずこの論文の研究目的は高インスリン血症の発がん機序を解明することとなっています。

以前より高インスリン血症はがんのリスクとなっていることは知られていたものの、その機序はよくわかっていませんでした。

そこで今回いろいろ調べたらこんなことがわかったよということを教えてくれています。

我々の細胞は古いものは壊れ新しいものが作られるという入れ替わりを起こしているわけですが、たまにできそこないの細胞ができます。

できそこないの異常な気質を持った細胞は正常に機能しないばかりか放っておくとがん化する恐れもあるため本来は破壊されてしまい、がんにならないようになっています。

論文によると正常のインスリンレベルの人では、がんのポテンシャルを持った細胞が成長しないように周囲の正常な細胞が栄養を競合することで異常細胞の栄養不足を起こしてがん形成を防いでいるとのことです。

一方、高インスリン血症になると異常細胞のインスリン受容体発現が高まり、mTOR活性を介して異常細胞でのタンパク合成が促進されることでがん形成が引き起こされていくとのことです。

高インスリン血症(2型糖尿病含む)はやはりいいことがありませんね。

2型糖尿病は病院で診断される前から高インスリン血症になっているわけですから、気付いた時には身体に何らかの健康リスクを伴っているわけです。

ということで高インスリン血症の原因となるインスリン抵抗性はいち早く改善しなければいけません。

そしてインスリン抵抗性の一因は身体の脂肪過多ですから、つまりはさっさと脂肪を減らそうとなるわけです。

身体から脂肪を落とすためにはカロリーがポイントにはなりますが、実はカロリーよりも栄養素のバランスを考えることが大切です。

つまり同じカロリーを唐揚げやお菓子で摂取するのと、ブロッコリーやブルーベリーなどから摂取するのでは身体の反応はことなるわけです。

エネルギーとなる三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の摂取割合については色々と検討事項はあるものの、飽和脂肪酸の過剰摂取は心血管疾患のリスクになることは明らかですから、やはり日本糖尿病学会も言っているように炭水化物50-65%、タンパク質13-20%、脂質20-30%(飽和脂肪酸は7%以下)程度でいいでしょう。

というかまずは1日のエネルギー摂取量を決めて、次に体重当りのタンパク質量を決めて、その次に脂質摂取量(特に飽和脂肪酸)を決めれば終了です。

炭水化物摂取量は1日の摂取エネルギーからタンパク質と脂質でのエネルギーを引いた残りの分を摂取すればOKです。

ちなみに炭水化物はできれば精製されたものではなく全粒穀物にしましょう。

ちなみに米国心臓病学会では飽和脂肪酸の摂取は総摂取カロリーの7%未満にしろと言っています。

そして同学会では、塩分は1日2.3g未満にしろと言っていて、飽和脂肪酸と塩分量を抑えることの推奨エビデンスレベルはAだぞ!(つまり最もエビデンスレベルが高いということ)とまで言っています。

日本人で塩分摂取1日2.3gは無理でしょう。

地中海食やDASH食なら近づけるのかもしれませんが。

閑話休題

さてさて論文では、メトホルミン(糖尿病治療薬)を投与すると異常細胞でのがん形成が抑制されたとも言っていました。

メトホルミンを投与することで異常細胞のインスリン受容体の発現が低下し、異常細胞でのタンパク合成が抑制されたとのことです。

こちらのnature reviews endocrinologyにある論文によると、癌細胞においてメトホルミンはエネルギーストレスの誘発物質として機能し、その機序としてはAMPK(AMPキナーゼという酵素)の活性化によるmTORの阻害が、がん細胞の分裂抑制に必要なのだろうと言っています。

AMPKの活性化といえばどこかで聞いたことがありますね。

そう、以前から当ブログで取り上げている”運動”です。

運動の強度を高めることで骨格筋内のATPが消費され、AMPが上昇することでAMP/ATP比が高まり、AMPKが活性化するのでした。

ということで、やはりタンパク質と脂質摂取量を意識し、炭水化物(糖質)の摂取しすぎに気をつけてカロリーオーバーしないようにして、インスリン抵抗性(高インスリン血症)の元となる脂質過多を防ぎ、ATPをしっかり消費する運動をきちんと行うことが、がん予防にもいいみたいですね。

そういえば、今回読んだどの論文にも糖質制限がいいようだということは書いてありませんでした。

目次