こんにちは。
今回は糖尿病とくればインスリンというように、血糖コントロールとはきってもきれないインスリンについて正しく理解しようとうお話です。
インスリンは血糖低下作用以外にも重要な役割を持っていますが、そこらへんの理解がしっかりなされぬままに『肥満ホルモン』などと呼ばれてしまうこともあります。
インスリンは宿主の行動に従って身体の状態を保とうと一生懸命なのですがね。
肥満は自分の行動のせいであり(内分泌肥満などの疾患を除く)、インスリンのせいではないのです。
ですからインスリンを『肥満ホルモン』と決めつける前に、じゃあインスリンって何をしているの?ということをしっかり理解する必要があります。
インスリンの役割をしっかり理解したうえで、「肥満になったのは俺のせいじゃない。インスリンのせいだ!」と考えるのは個人の勝手です。
まぁそう考えちゃった場合は、インスリン分泌を極力抑える糖質制限を行うしか方法はなくなりますが…
インスリンの役割
では早速インスリンの役割をみていきましょう。
有名なリッピンコットシリーズのイラストレイテッド生化学によりますと、インスリンの役割は以下になります。
“インスリンは組織の協調のとれた”燃料(エネルギー源)”の利用に最も重要なホルモンである。その代謝への影響は同化anabolic作用促進であり、グリコーゲン、トリアシルグリセロール、タンパク質などを合成系に傾斜させる。”
リッピンコット シリーズ イラストレイテッド生化学[原著7版] p396
トリアシルグリセロール(triacylglyserol)はトリグリセリド(TG)とも呼ばれ、ざっくりいうと中性脂肪のことです。
さらにイラストレイテッド生化学のp399には“栄養素をグリコーゲン、TAG、タンパク質として貯蔵することを促進し、それらの動員を抑制する。”とも記載されています。
インスリンは栄養素を貯蔵するということをもう少し進めて考えると、身体が栄養素を取り入れて筋肉や脂肪など身体の組織を新しく合成する働きがあるということです。
この身体の組織を新しく合成することをアナボリック(同化)といいます。
ちなみにアナボリック(同化)の反対で、身体の組織を分解することをカタボリック(異化)といいます。
インスリンが肥満ホルモンなどと言われるのは、このアナボリック作用ゆえに脂肪を貯めて分解を抑制するからですね。
ではインスリンの働きをもう少し詳しくみてみます。
インスリンは主に骨格筋、肝臓、脂肪細胞において糖質、脂質、タンパク質代謝に影響を及ぼします。
具体的には以下の作用があります。
1.糖質代謝では肝臓と骨格筋でグリコーゲン合成を促進し、骨格筋と脂肪組織では糖質の取り込みを増加させ、さらには肝臓における糖新生を抑制する。
2.脂肪組織における脂肪酸分泌を低下させ血中への脂肪酸の遊離を低下させる。
3.ほとんどの組織でアミノ酸の細胞内取り込みを促進してタンパク質合成を促進する。
1の作用のおかげで血糖が下がるわけですし、2の作用のおかげで血中に脂肪酸があふれることを防いでくれます。
そして3のおかげで骨格筋をはじめとした、分解された組織が合成されるわけです。
ということはインスリンの効果が十分発揮されない糖尿病だとどうなるかもわかります。
1.糖質の取り込みが低下しグリコーゲン合成が抑制され、糖新生が促進される。
2.血中への脂肪酸の遊離が増加する。
3.タンパク質合成が促進されない。
糖尿病を理解するにあたって、血糖が上昇することは当たり前なわけですが、血中の遊離脂肪酸の増加も起こっていることをきちんと押さえておかなければなりません。
そして、遊離脂肪酸の異常増加からの異所性脂質の蓄積がインスリン抵抗性の要因となっていることも押さえておく必要があります。
異所性脂肪がインスリン抵抗性を引き起こすことについては、Cellという世界最高峰の学術雑誌に掲載された論文でも説明されています。
Integrating Mechanisms for Insulin Resistance: Common
Threads and Missing Links
ということで、インスリンの作用としては血糖を下げるだけでなく、脂質代謝にも強く影響を及ぼしていることを押さえましょう。
ではインスリン効果が十分発揮されないことで脂質代謝に影響が出た結果どうなるの?という点については別の記事で。