食事性脂肪の違いを理解する

インスリン抵抗性の原因は過剰な食事性脂肪であることがわかりました。

では食事性脂肪とは何でしょうか。

ここからは脂肪という言葉を脂質として扱っていきます。


脂質には飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸などがあり、それぞれ性質は異なります。

ここでは、食事性脂質といっても違いがあることを知り、実際の食事ではどうしたらいいのかを学びます。


血糖値のコントロールとインスリン抵抗性の制御については、全ての脂肪が同じように作用するわけではありません。

トランス脂肪酸、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が健康にどのように影響するかには重要な違いがあります。


異なる種類の脂肪酸を区別することが重要です。

言葉がややこしくなりますので、ざっくりと『脂質=脂肪=脂肪酸』と考えていきましょう。

1.トランス脂肪酸

トランス脂肪酸は、心疾患、脳卒中、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症、高血圧症など、心血管系疾患の増加に関連しています。

そのため、糖尿病でなくても基本的には摂取を控える脂肪です。


トランス脂肪酸は牛肉、豚肉、羊肉、バター、および牛乳(総脂肪含有量の1〜10%)にごく少量存在する脂肪の一種です。

しかし、これらにおけるトランス脂肪酸の摂取量はごく僅かです。

食事におけるトランス脂肪酸摂取のほとんどは加工食品になります。


加工食品のトランス脂肪酸は、食品メーカーが不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に加工する過程の水素化で作り出されます。

なぜ水素化を行うかというと保存期間の長い製品を作るためです。


トランス脂肪酸は加工食品のいたるところに含まれており、ケーキ、パイなどの焼き物、クッキー、ビスケットなどのスナック菓子、マーガリン、ショートニングや、フライドポテト、ナゲットなどの揚げ物やファストフード、クラッカー、電子レンジ調理用ポップコーン、クリーム入りキャンディー、ドーナツなど、さまざまなものが挙げられます。


トランス脂肪酸は未加工肉と加工肉の両方に含まれますが、加工肉には元の未加工肉よりも大幅に多く含まれています。

残念なことに日本の栄養成分表示ではトランス脂肪酸の表示が義務となっていません。(トランス脂肪酸含有が低いものであれば表示している物もあります)

そのため、上記の内容のものは極量控えるという姿勢が重要です。


ここで、栄養成分表示の例をお示しします。

食品栄養表示

これは、クッキーの一例です。

トランス脂肪酸とは記載されていませんが、ショートニングが入っています。

つまり、トランス脂肪酸が入っていることがわかります。

このクッキーは、さらに砂糖や油の他、添加物など人工的に色々なものが入っていることがわかります。


原材料名は成分量が多い順に並んでいますので、このクッキーを食べることは、小麦粉、砂糖、植物油、ショートニングなどを食べることを意味します。

たったの2個で164kcalもあり、脂質も6.4gあります。


糖尿病の方がこのクッキーを食べることは有意義なことでしょうか。

残念ながら糖尿病を改善する要素はなく、買う前に栄養成分表示を見るだけで余計な出費をすることを防ぐことができます。


もう一つ、食品栄養表示を見てみましょう。

調理パンの栄養表示

こちらは調理パンの一例です。

マーガリンが入っていますが、トランス脂肪酸とは表示されていません。

おまけに糖分も入っていますし添加物もたくさん入っています。


つまり、この調理パンを食べることは、卵フィリング、小麦粉、砂糖混合異性化液糖、マーガリン(トランス脂肪酸)、その他多くの添加物を身体に取り入れることを意味します。

果たして健康的な食品でしょうか?


あなたは自分が口にしているものはいったい何なのかを知る必要があります。

そのための第一歩として、買ったり食べたりする前に栄養成分表示を見ることをお勧めします。

明らかに身体によくなさそうな物が入っている栄養成分表示を見ることは、そのような物の摂取機会が減ることに繋がります。


2.飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は全ての自然食品に含まれる天然の脂肪酸で、主に肉、家禽(≒鶏肉)、魚、貝、乳製品(バター、チーズ、牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、ホイップクリーム)などに含まれています。


また、卵、植物油、ココナッツオイル、パーム油、カカオバター、アボカド、ココナッツ、ナッツ、種子などの植物性食品にも含まれています。


少量の飽和脂肪酸(1〜5グラム/日)はブドウ糖代謝に大きな影響を与えませんが、大量の飽和脂肪酸(1日あたり約20グラムを超える)の摂取はインスリン抵抗性などの有害な反応を引き起こす恐れがあります。


過剰な飽和脂肪酸は膵臓のベータ細胞がインスリンを産生および分泌する能力に害を与えます。

さらに脂肪肝を促進し、肝臓で生成されるブドウ糖の量を増やし、中性脂肪を上げ、悪玉コレステロールを増やします。


3.不飽和脂肪酸

不飽和脂肪酸は3種類の脂肪酸のうち最も有害性が低く、少量で摂取した場合にはインスリン抵抗性の発生を防ぐ効果があります。


飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えると悪玉コレステロールの低下と体脂肪の減少に加えて、インスリン感受性が数週間で改善するという研究もあります。


ところで、不飽和脂肪酸には2種類の脂肪酸があります。

一価不飽和脂肪酸(MUFA)多価不飽和脂肪酸(PUFA)です。

MUFAは体内で合成できるため非必須脂肪酸とされます。

一方、PUFAには体内で合成することができないものがあり、それらは必須脂肪酸とされます。

MUFAはPUFAよりも糖尿病のリスク低下に関連性があります。


飽和脂肪酸の多い食品を不飽和脂肪の多い食品に取り替えるのは魅力的なことです。

ナッツと種子類(クルミ、アーモンド、カシューナッツ、チアシード、亜麻仁)には、不飽和脂肪が含まれています。

さらに、それらは栄養素密度が高く、抗酸化剤、繊維、ポリフェノール、ミネラルなども豊富です。


そう聞くと、肉や乳製品の代わりに大量のナッツや種子を食べたくなるかもしれませんが、インスリン感受性を最大にするためには脂質の摂取は総カロリーの15%以下にすることをお勧めします。

脂肪の摂取は飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸が豊富なナッツ、種子、アボカド、ココナッツ、オリーブなどを摂るようにしながら、総摂取量は抑える必要があります。

ポイント

押さえるべき重要なポイントを次に示します。

  1. 総脂肪摂取量を総カロリーの最大15%に減らす。
  2. 飽和脂肪酸とトランス脂肪酸が豊富な食品(肉、鶏肉、乳製品、卵、油、および加工食品を含む)を、炭水化物を多く含む自然食品(穀物なら精製されていない物)や豆類などの植物性タンパク質、魚介類に置き換える。
  3. ナッツ、種子、アボカド、ココナッツ、オリーブなどの高脂肪植物食品はPUFAが豊富なものの、総脂肪摂取量が約15%を超えるとインスリン抵抗性は高まる。
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